コンサルティング業務委託契約書の作成

「コンサルティング契約」とは、クライアント(委託者)に対して、コンサルタント(受託者)が自分の持っている専門的知識やノウハウなどの情報を提供し、指導助言(コンサルティング)する契約のことで、このコンサルティング契約に関する書面が「コンサルティング契約書」です。

コンサルティング契約には、「思い描いていたコンサルティングの内容と違う」「想定していたような効果が得られない」など、実際にコンサルティングを受けてみなければ、業務の質が分からないという問題があります。

この記事では、そのようなコンサルティング業務に関わるトラブル防止に役立つ契約書について説明します。

コンサルティングの業務委託契約書とはなにか



コンサルティング業務の内容は様々で、経営コンサルティングや人事労務、資金調達、税務関係など多岐にわたります。

しかし、コンサルティング業務は、実際にコンサルティングを受けてみなければ、業務の質が分からないという、対象が「目に見えないサービス」です。

委託契約する前に思い描いていたコンサルティングの内容と違っていたり、想定していたような効果が得られないなど、トラブルにつながることもあります。

中には十分なコンサルティングが提供されなかったとして裁判にまで発展したケースもあります。

コンサルティング業務委託契約書にはコンサルティングに関わるトラブルを未然に防止するために大きな役割があるのです。

 

コンサルティング業務委託契約書の記述内容

コンサルティング業務委託契約書は、契約されるコンサルティングの内容を具体化、明確化する役割があり、クライアントとコンサルティングの認識を共有化します。

コンサルティング契約の法的性質は、コンサルティング契約の内容によってさまざまです。

コンサルティング業務委託契約書を作成する際に注意すべきポイントは、契約するコンサルティングがどのような法的性質があるかを理解することです。

コンサルティング契約は大きく分けて「委任契約」と「請負契約」の2種類があります。

それぞれについて説明します。

 

「委任契約」となる業務委託契約

「委任契約」とは、「誰かに何かをしてもらうようにお願いする契約」を指します。

そして法的な解釈として、委任契約の中で「事実行為」の委任を受ける契約を「準委任契約」といいます。

これを「コンサルティング契約」に当てはめてみましょう。

「コンサルタントの持つ知識や技能をクライアントに提供する契約」を結ぶと、その際の法的性質は「準委任契約」となります。

一般的な「コンサルティング契約」では、委託者側であるクライアント企業が何かしらの事業を行っています。

そして受託者側のコンサルタントがその事業の専門家としてアドバイスをします。

コンサルタントがクライアントから「経営に必要な知識を提供してほしい」という事実行為の「委任」を受けることで、「準委任契約」の性質が発生します。

「準委任契約」は一般的に「業務委託契約」と呼ばれることも多く、耳にされたことも多いのではないでしょうか。

 

「請負契約」は仕事の完成が目的

法的な性質が「請負契約」となる「コンサルティング契約」の業務の内容があります。

これは前述した「委任契約」がコンサルタントの知識やノウハウの提供が目的の契約であったことに対し、コンサルティングによる一定の成果が前提として求められる契約になります。

つまり、前述した「委任契約」は「仕事の委任」を目的とした契約ですが、「請負契約」は目的が「仕事の完成」の契約となります。

請負契約となったコンサルティング業務では一定の成果が求められるため、その報酬も仕事を完成させることで発生します。

そのため、契約の内容では成果に対する責任について明確化して記載されていないとトラブルの原因となりますので注意しましょう。

コンサルティング契約とアドバイザリー契約の違い

「コンサルティング契約」とは別に「アドバイザリー契約」というものがあります。

その違いについてなのですが、実は名称が違うだけで内容について大きな違いはありません。

どちらも専門的な知識やノウハウの提供をコンサルタントかアドバイザーに委託し、サポートを受ける契約になります。

重要なのは契約内容と業務内容になりますので、名称にこだわらず業務内容の設計に注意しましょう。

 

コンサルティング業務受託契約書は法律上必要なのか



 

トラブルを回避するためにも契約書はできる限り作るべき

そもそも「なぜ契約書を締結しなければならないのか」という根本的な疑問があります。

「契約」は口頭でも成立するとされていますが、それでは契約したという確実な証拠が残らず、認識の祖語、記憶違い、責任の所在が不明瞭になるなど様々なトラブルの原因となります。

業務として報酬が発生する点から考えても、コンサルタント(受託者)側、クライアント(委託者)側のどちらにとっても契約書の作成、締結は必須です。

 

特定の業務では必要になる①投資助言業務

コンサルティング契約は契約書が無くても締結できますが、例外もあります。

その一つが、業務内容に投資助言が含まれる契約です。

こちらは投資助言金融商品取引法の定めにより、顧客と契約する前に「契約締結前の書面」の交付が必要となり、また契約時には「契約締結時等の書面の交付」が必要です。

これらの書面を交付せずに契約した場合には、法令違反となり罰せられます。

 

特定の業務では必要になる②不動産投資顧問業

契約に関する書面が必要な業務に「不動産投資顧問業」があります。

こちらは不動産投資を考えるクライアントからの委託を受けて、不動産投資に関する助言業務や投資判断・取引代理を伴う一任業務が業務の内容となります。

宅地建物取引業法に基づいて「保有する不動産の運用に関する評価・分析」などをコンサルタントの立場からクライアントに助言・調査報告します。

不動産投資顧問業登録規定によって投資助言契約前後のルールが定められており、「契約締結前の書面の交付」と「契約締結時の書面の交付」の作成、「書面による解除」などが必要とされています。

 

下請法適用される場合にはクライアント側が契約書を作成する

現在のところ、「コンサルティング契約書」を作成しなければならないという法的な義務は原則としてありません。

ただし、コンサルティング契約の内容や契約に関わる当事者の関係によって、「下請法」が適用される可能性もあります。 

下請法が適用される場合は、契約書(いわゆる「三条書面」)を作成する必要があります。 

下請法が適用されるかどうかについてのポイントの一つに、委託者と受託者の資本金があり、委託者の資本金が1千万円を1円でも超えていて、受託者が資本金が1千万円以下の会社や個人事業者であると、下請法の規制対象となる可能性があります。

下請法が適用される場合、親事業者となるクライアントがコンサルティング契約書を作成する必要があります。

コンサルティングの委託を考える際にはお互いの資本金というポイントにも注意してください。

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コンサルティング業務受託契約書作成の重要なポイント

  

 

コンサルティング契約は知的財産の創造・提供・譲渡である

どのようなコンサルティング契約であっても、コンサルタントはクライアントからの依頼に対して、何らかの知的財産を創造することが業務になります。

例えば経営コンサルタントであれば、何らかの知的財産を保有することで業務を行っており、その知的財産の多くは著作物やノウハウとして存在しています。

この知的財産をクライアントに開示することがコンサルティング業務の一部ですが、開示された知的財産をクライアントが実際に利用できるようになることがコンサルティング契約の重要なポイントです。

コンサルティング契約では、「コンサルタントによって創造された知的財産」に関する知的財産権の譲渡または使用許諾が含まれます。

コンサルタントが創造した知的財産に関する権利は、本来コンサルタント自身が保有します。

知的財産はクライアントといえども、なんの許可も無く勝手に利用することができません。

そこで知的財産権の譲渡や使用許諾をコンサルティング契約の内容とすることで、クライアントはコンサルタントのサポートを受けることが可能となるのです。

 

契約書を締結する理由をしっかりと理解する

「契約」は、口頭でも成立するとされています。

では、なぜ契約書という書面を作成し、締結するのかというと「トラブル防止のため」が一番の目的です。

コンサルティングというサービスは目に見えてカタチが残るものではありません。

定量的なものではないため、業務の内容や報酬の支払いについて契約書をもって明確にしておかないと、トラブルが発生する可能性が非常に高くなります。

契約書の締結は、コンサルタント(受託者)側とクライアント(委託者)側のお互いを守る大切なものになります。

必ず事前に作成しましょう。

 

印紙税はかからない

コンサルティング契約書を締結する際、印紙を貼る必要はありません。

印紙税法においては、一定の「課税文書」については印紙を貼る必要があるものとされています。

しかしコンサルティング契約書の性質が「委任契約」であれば、印紙税はかかりませんので、印紙は必要ありません。

ただし注意すべきは、コンサルティング契約書の性質が「請負契約」の場合です。

例えば、マーケティングに関する調査報告書を作成し提出を求めるようなコンサルティング契約書を作成したとします。

これは内容的に「請負に関する契約書」になり、印紙を貼る必要があります。

同じコンサルティング契約書なのですが、「請負契約」であれば印紙を貼る必要性が発生しますので、よく内容を確認しましょう。

 

事業を成功させるために委任契約を活用しよう

コンサルティング委託契約に基づいて、アドバイスを受けることは、業務を進めるうえで多くのメリットがあります。

  • 自社の問題点の洗い出し

コンサルタントによる企業分析によって、真の経営問題、経営課題が明確になり対策を取ることができます。

  • コンサルタントの幅広い経験・知見・ノウハウが手に入る

様々な業界・業種以外の企業と仕事をし、分析をしてきたコンサルタントは幅広い知識と経験を持ち、問題解決のノウハウを知っています。

自社の問題解決においてコンサルタントの存在が効果的に働くことでしょう。

幅広い業界・業種の企業を分析し、深くまで関与したことのあるコンサルタントの経験・知見を活用すれば、自社の問題に対する効果的な解決策が見つかる可能性が高まります。

未知の分野、新規事業に関する適切なアドバイザーになることができます。

自社がこれまで経験してこなかった分野や、新しく踏み出そうとする分野においてコンサルタントの知見はとても有用です。

コンサルタントの多角的な視点や、業界経験は自社の進むべき方向を指し示すものとなります。

 

トラブルにならないためのコンサルティング業務委託契約書の作り方


コンサルティング契約書の題名は、「コンサルティング業務委託契約書」「コンサルティング業務基本契約書」「コンサルティング契約書」など、さまざまですが、基本的な内容は同じです。

その法的性質が「委任契約」なのか「請負契約」なのか、「コンサルタントがどのような責任を負うのか」といったことも、契約書の題名ではなく、内容で決まります。

ここでは、後のトラブルにならないためのコンサルティング業務委託契約書の作り方について説明します。

 

テンプレートは相手に合わせて都度修正して使う

コンサルティング業務委託契約書のテンプレートはインターネット上にいくつか公開されていますので、最初はそれらを利用するとよいでしょう。

しかし、条項の内容については、当然、それぞれの契約内容にあわせて修正する必要があります。

テンプレートの初期段階で記載されている内容によっては、相手方にとって有利で自分にとって不利な記述になっている可能性もあります。

テンプレートはあくまでも、必要な項目や記載の仕方、順番の参考ツール。あらかじめ記載されている内容もサンプルテキストです。

自社の契約内容として問題ないように細部までチェックしながら契約書を作成しましょう。

 

初めての契約の場合は過去の取引や実績を問い合わせる

相手のコンサルタントが良く知った人物、会社であり、過去にも契約実績があり満足のいく成果があったのであれば問題ありませんが、初めてコンサルティング契約をする相手に対しては慎重になるべきです。

特にコンサルタントが過去に取り扱った業務の内容や、実績、成果は、相手が信用できるコンサルタントか否かの判断材料になるので、必ず把握しておくべきです。

多くのコンサルタントは自身の実績や専門分野を公開していますが、契約前には必ず早い段階で取引実績などを問い合わせましょう。

 

迅速な対応をしてくれそうかどうか

よいコンサルタントの条件の一つにレスポンスの速さがあります。

問い合わせをしても回答が遅い、必要な情報・資料が提出されないという状態が続くと業務の進行自体に影響し、大きなチャンスロスにつながる可能性があります。

コンサルタントの対応が遅いことは、コンサルタント契約自体が業務の足を引っ張ることになってしまいます。

契約前のやりとり、評判、過去の業務実績・内容から、コンサルタントの持つスピード感について把握し、レスポンス能力の高いコンサルタントを選びましょう。

 

成果物のない委任契約には注意が必要

コンサルタント契約は抽象的なサービスを提供するものであることが多くあります。

したがって、契約による成果について明確になっていないと、サービス提供がないことやサービスが不十分であることについての証明は非常に困難です。

コンサルティング契約に不満を抱き契約を解消しようとしても、契約書の条件で違約金を支払うなどの必要が出てきてしまい、実効性のないサービスに思わぬ支払いをすることになることもあります。

どのような成果が達成されるコンサルティング契約であるか、書面の上でも明確にし、お互いの認識を擦り合わせておきましょう。

 

まとめ

コンサルティング業務の委託契約書について、その作成時、締結時に注意しておきたいポイントを中心に解説してきました。

コンサルティングは知識の提供であり、元手が不要な「目に見えないサービスを提供する」性質を持ちます。

そのための成果の決め方、対価の支払方法、責任の所在など、トラブルの火種が多く潜んでいることも確かです。

安心してコンサルティング契約書を締結するためには、コンサルタント側、クライアント側のどちらも注意が必要です。

この記事が、より良いコンサルティング業務の委託契約の助けになることを願います。

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